ある都立高校の保健室を舞台に、卒業式での「国歌斉唱」をめぐる教師たちの攻防を描き、大きな反響を呼んだ二兎社の代表作が14年の時を経て現代に甦ります。2005年にベニサン・ピットで初演した際には、連日立ち見の出る大盛況となり、極限状況に追い込まれた教師たちの織り成すドラマに、観客の目が釘付けになりました。以下、当作品への評価です。
第5回朝日舞台芸術賞グランプリ(二兎社)・秋元松代賞(戸田恵子)第13回読売演劇大賞最優秀作品賞(二兎社)・最優秀女優賞(戸田恵子)・優秀演出家賞(永井愛)
『歌わせたい男たち』が描く公立学校の卒業式をめぐる状況は、学校だけでなく、職場やサークルなど、大小の差はあれどんな組織でも起こりうるものです。重要な問題が発生しても正面から向きあわず、論点をずらしたりその場を取り繕うのに躍起になったり。その結果、何も解決しないどころか、当事者の心が少しずつ壊れていくことも……。この作品に登場する保健室の扉の向こう側は、まさに私たちの生きる社会そのものと言えるでしょう。
はからずも自分自身の生き方を試される状況に陥ってしまった人たちの攻防がリアルタイムで展開する、驚愕の「笑える」悲劇にどうぞご期待ください。
あらすじ
仲ミチルは、ある都立高校の音楽講師。“売れないシャンソン歌手”からカタギへの転身を果たしたばかりで、この仕事を何としてでもキープしたいという強い決意でいる。
今日はミチルが初めて迎える卒業式。ピアノが大の苦手なのに国歌や校歌などの伴奏を命じられたため、早朝から音楽室でピアノの稽古だ。だが緊張のせいか眩暈に襲われ、コンタクトレンズを片方落としてしまった。これでは伴奏するどころか歩くことさえままならない。
校長の与田はミチルを気遣いながらも、「君が代」をちゃんと弾かせることに異様なこだわりを見せる。しかも、ミチルに何か思惑があって伴奏したくないのではないかと疑っているようだ。ミチルは仲の良い社会科教師の拝島からメガネを借りて事態の打開をはかろうとする。しかし、養護教諭の按部から、拝島が「ゴチゴチの左翼」であると聞かされ、驚くのだった。今までみじんも考えたことのない問題の当事者にされてしまい、困惑するしかないミチルだが……。
立場の異なる様々な教師らの思惑が交錯する中、卒業式の時間は刻一刻と迫ってくる。